2009年12月17日木曜日

ドイツのムスリム文化センター

最近、ヨーロッパにおけるムスリムのテーマを追っていますが、八幡さんから昨日の記事に以下コメントをもらいました。11月7日、ケルンでムスリム文化センターとモスク建設の定礎式が行われ、ケルン市だけでなくトルコの外務省関係者など多数の人達が祝辞を述べました。信仰の自由を強調しています。この約3週間後、スイスでミナレット禁止の国民投票が実施されました。


スイスのミナレット禁止がヨーロッパからアラビア世界まで揺るがしていますが、つい先日、11月7日には、ケルン市のエーレンフェルド地区で、ムスリム文化センターとそれに付属するモスクが建設されることになり、定礎式が行われました。

今年の4月頃からケルンの住民のヒアリングとディスカッションがおこなわれ、その結果決まったことだそうです。

http://www.zentralmoschee-koeln.de/

ケルンから少しはなれているデュッセルドルフには, ドイツ最大の El-Muhaxhirin Moschee - Dusseldorf があり、市内のモスクのかずは20にたっしています。


ライン河に臨む両商業都市は、ローマ帝国時代から金銀・ガラス・繊維品・香料など、遠隔地貿易の中心地であり、ローマ帝国のころから、各地の商人や職人が住み着いていた都市でしたから、国際結婚も多く、アルプス地方に較べると遥かに開かれた、多文化的な独立都市でした。同じドイツ語圏の所謂ドイツ人にも、地方毎の歴史の違いがいまに至るまで影響を及ぼしていることが、そこに暮らしてみるとよく判ります。

今回のスイスの国民投票は、何よりもスイスそのものにとって重大な損失を意味していると思います。イスラム教徒はスイスから預金をよそに移すべきだという議論もありますが、EUに加盟したいと何度も試みてきた連邦政府や、多くの知識階級の願望にたいして、国民の多数が、スイスのEU加盟の非適格性を実証してしまったのではないでしょうか。

EU加盟の条件のひとつは、欧州人権条約に署名する事ですが、スイスはこれをあらかじめ果たしているわけです。すると、宗教生活と表現の自由という普遍的なヨーロッパ的価値観を否定するような国民投票の結果が出れば、まさに、トルコのEU加盟が問題となっているのと同じ、基本的人権の価値の共有が問題視されることになります。スイスは十分にヨーロッパ的ではないとされる可能性がありますし、ストラスブールの欧州人権裁判所も、今回のスイス国民の意思表示が、EUの根本的原理に適合しているとは判断しないでしょうし、欧州理事会も、スイスの投票結果を容認することは出来ないでしょう。

国民投票の結果についてよく言われるのが、イスラム諸国でキリスト教徒マイノリティが受けている権利制限、あるいはあからさまな差別に対するし返し、つまり、目には目を、歯には歯を、だという意見がありますが、それでは、スイスは、12世紀に、世俗の学問を封鎖し、イスラム神学だけを知的な活動としてみとめ、その結果、そのころまでは、イスラム世界よりも文化的・学問的に低いレベルにあったキリスト教ヨーロッパ世界が、イスラム世界から学び取った、特にアリストテレス哲学の影響で、スコラ学に見られる理性主義の思想を発展させ、それがルネサンス期からの自然科学の発達、それに続く啓蒙思想の発達によってヨーロッパが形成してきた、宗教と国家の新しい関係から滑り落ち、啓蒙思想を形成することが無かったイスラムと同じような、『啓蒙以前』の状態に戻ってしまったことを内外に表明する結果となります。

スイスとしては、譬えキリスト教徒がイスラム世界で抑圧され、自由を制限されていても、イスラム教徒はヨーロッパでは宗教上の自由を享受できるのだという、moral superiority (道徳的優位性) を明確にして見せる絶好のチャンスを失った事になり、これはスイスにとって取り返しのつかない大きな損失です。

スイスはこれまでムスリムとのコンフリクトが表立って見えなかった国で、フランスやドイツと事情を異にしてきました。そこで、ムスリムの活動を制限する動きがでたわけです。しかし、これはコンフリクトが表立っていなかったが故に、あまりにストレートな意見が出てしまったとも考えられます。21世紀は道徳的優位性がより「効く」時代であるはずが、スイスは逆の面を見せてしまったわけです。スイスだけでなく、他の国でもミナレット禁止に同調している動きがある以上、この問題の関連ニュースを更に追っていきます。

2009年12月15日火曜日

オランダの二重国籍/スイスのムスリム

オランダは多文化主義のもとで、外国籍の議員の導入などを積極的に行ってきた国だ。しかし、現在、オランダで二重国籍は許されない。しかし、二重国籍が相変わらず多いとのニュースがある。

http://www.nrc.nl/international/article2438092.ece/Over_1.1_million_Dutch_people_have_two_nationalities

1.1百万人が該当する。人口16百万人だから6-7%が二重国籍だ。1997年、オランダ国籍をもつ際、オリジナルの国籍の放棄を求める法律が通過。が、モロッコなどでは国籍放棄自身が許されないし、トルコなどでは遺産相続上の問題から、国籍をそのまま維持することになっている。両親の片親がオランダ国籍であれば、子供は自動的に二重国籍になるが、18歳にはどちらかの選択が必要とされるという。

ヨーロッパで二重国籍はわりと一般的であると思われがちであるが、その数はなかなか把握し切れていないのが実態ではないか。こういうニュースがある一方で、イスラム教寺院の尖塔建設禁止のスイス国民投票から2週間を経て、以下のニュースがある。

http://www.swissinfo.ch/eng/index.html?cid=7899186

ムスリムの一元的組織を設立するかどうかについて、ムスリム内で賛否両論がある。今、ムスリムが一体となることが、それも目に見える形で主張することが本当に優先事項なのか?ということである。この記事のなかに、「ムスリムもクリスチャンや仏教徒と同じように権利をもちたい」という意見があるが、仏教徒は目に見える主張を何かしているのだろうか・・・・そこは不勉強のぼくには不明。

ヨーロッパのおける移民やイスラムとの共生の問題は各国で、ある一点、いわば沸騰点に近くなっている様子を感じる。小さな微妙な判断の集積が、ある時点で視覚化される。

ヨーロッパ関連の本のレビュー(2)

前回に引き続きブックレビューのリスト。新書が中心。あまり溜め込むより、小出しにしていこう。ぼくの本の読み方は、以下に書いてあるが、僕にしか役に立たないレビューかもしれないのでご注意を!

http://milano.metrocs.jp/archives/2512

前回と今回のリストで、現在のヨーロッパの全体的リアリティを描こうという気力に溢れているのは、岡田温司、三島憲一、内藤正典、庄司克宏あたりの本ではないか。

三島憲一『現代ドイツー統一後の知的軌跡』
http://milano.metrocs.jp/archives/2575

脇阪紀行『大欧州の時代ーブリュッセルからの報告』
http://milano.metrocs.jp/archives/2560

内藤正典『ヨーロッパとイスラム 共生は可能か』
http://milano.metrocs.jp/archives/2518

平林博『フランスに学ぶ国家ブランド』
http://milano.metrocs.jp/archives/2506

2009年12月14日月曜日

ミラノサローネについて書くこと

ミラノサローネについてブログに先日から書き始めた。今日は2回目。3年目になる。

http://milano.metrocs.jp/archives/2569

ぼくは色やカタチの傾向を表層的に追うのではなく、その先にある全体的な考え方のトレンドを追っている。それは単なる好奇心も働いているが、さまざまなチャンネルに流れるさまざまな兆候を見ながら、その全体をみるのが自分のビジネス上の役割であると考えるからだ。

そこにあって、ミラノサローネというのは、実に適当な観察対象になると思う。何しろ、目に見えるものをだいたいが相手にしている。ヨーロッパのおよその平均とイタリアがどう差があるのか、それらと日本のそれはどう違うのか、これらが比較的分かりやすい形で提示されている。

そして、生活雑貨や家具がメイン。ライフスタイルが反映されやすく、かといってファッションほどに回転が速くない。毎年、家具を買い換える人はあまりいないが、何らかの変化が何割かは見えてくる。だから、今年も書いていこうと思い至った。

2009年12月12日土曜日

ダブリンーチューリッヒーミラノ

「さまざまなデザイン」に今週アイルランドに滞在して感じたことを書いた。

http://milano.metrocs.jp/archives/2551

あそこでいつも思うのは、EUとアメリカの近さだ。リスボン条約の批准がアイルランドの国民投票の結果もあって時間がかかったが、ブラッセルの動きに敏感な国だと思う。やはりアメリカと近い隣の国がまだポンドから離れないのと対照的。その頑固でない部分で、アメリカの影響力を上手く使っているのがアイルランドともいえるだろう。ある調査によれば、自国にプライドがあると回答するのは、ポーランドとアイルランドが(ヨーロッパのなかで)高いというが、両国とも近隣の大国に長い間振り回されてきたという歴史がある。

先週でかけたスイスも、大国に挟まれている小国だが、アイルランドとは違いEUにも入らない。しかし、便宜上はEUとの壁を随分と低くしてきている。スイスとアイルランドの違いは、大陸特有の多言語圏がもつ「国際性」と英語圏でありながらマージナルであるところからくる「国際性」であろうか。アイルランドが、スイスのようにEUに入らないで独自路線を築くというのは考えにくい。文化的伝統は維持しながら、ヨーロッパに意図的に近寄っていないといけないのがアイルランドだ。

イタリアはヨーロッパのなかの大国である。ローマ条約に象徴されるように、新しいヨーロッパの形成に貢献してきた。しかし、大国のなかでは、若干マージナルな扱いをされやすい。そこで、「ある頑張り」と独自性がより要求される。ローマ帝国以来の歴史と文化が重要なブランドであるが、そこに胡坐をかいていればよいということでは当然ない。どちらかといえば、南ヨーロッパ文化が北ヨーロッパの退屈さに風穴を開けることに意味があるかもしれない。

この三カ国の組み合わせをキープすると、結構、従来にない形のヨーロッパを示すことができるのではないかーもちろん、どんな国の組み合わせでも可能なのだがーと考え始めている。

2009年12月9日水曜日

スウェーデンの外国人労働力

スウェーデンで外国人や外国の大学を卒業した人達が、スウェーデン国内の就職で苦労しているという記事がある。

http://www.thelocal.se/23732/20091208/

人種差別ではないとか、言葉の問題でもないとか、いわば暗黙知の問題ではないかとか、コメント欄も含めて賑わっている。あるいは、ドイツ人のようにはっきり差別するのではなく、そうとうの時間をかけないとスウェーデン人の差別意識には気づかないという意見も書かれている。

どこの国にもある問題であるといえばそうだろう。しかし、こんなにも差別ではないといいながら、実質的に差があることに対し、社会とはこういうものだという言い方を気楽に言えない、社会的特質がスウェーデンにはあるのではないかということは推測がつく。

どこか無理があるまいか・・・・?

2009年12月2日水曜日

ヨーロッパ関連の本のレビュー(1)

「さまざまなデザイン」に書いている本のレビューがたまってきたので、その中からヨーロッパ関連だけを拾って、ここにリンクを張っておく。また、冊数がたまってきたら、ここにリンクを用意しておく。


庄司克宏『欧州連合 統治の論理とゆくえ』
http://milano.metrocs.jp/archives/2466

J=P/ジュヴェヌマン/樋口陽一/三浦信考『<共和国>はグローバル化を超えられるか』
http://milano.metrocs.jp/archives/2418

ジャック・ル・ゴフ『子供たちに語るヨーロッパ史』
http://milano.metrocs.jp/archives/2343

林景一『アイルランドを知れば日本が分かる』
http://milano.metrocs.jp/archives/2274 

武田龍夫『北欧の歴史 モデル国家の生成』
http://milano.metrocs.jp/archives/2032 

小澤徳太郎『スウェーデンに学ぶ「持続可能な社会」』
http://milano.metrocs.jp/archives/1991

岡田温司『イタリア現代思想の招待』
http://milano.metrocs.jp/archives/1983 

宮島喬『ヨーロッパ市民の誕生』
http://milano.metrocs.jp/archives/1841 

フェルナン・ブローデル『地中海世界』
http://milano.metrocs.jp/archives/1780

木村尚三郎『ヨーロッパ思索紀行』
http://milano.metrocs.jp/archives/1772

ファビオ・ランベッリ『イタリア的』
http://milano.metrocs.jp/archives/1759

福島清彦『ヨーロッパ型資本主義』
http://milano.metrocs.jp/archives/1751