ヨーロッパ文化部の秋の活動に対して着々と準備をはじめています。ヨーロッパ文化を伝える趣旨に関し、最近「さまざまなデザイン」に以下を書きました。これは明治大学大学院の管啓次郎さんのゼミに提出した「安西洋之の36冊」レポートに対する感想の抜粋です。
今、ぼくはヨーロッパ文化をどう日本の人に伝えるかを考えている。そして、実際、本やブログも書き、多くの人の前で話すこともはじめた。もともと全体性の理解に対する拘りが強かったが、多くの経験を積み、それをある時点で統合しようと思ったとき、「ヨーロッパ文化」という具体的な名称で、ぼくの頭のなかに統合の事例として現れたのだった。
ただ、実を言えば、ヨーロッパ文化を伝えるとは、ヨーロッパに関する情報を伝えることと同義ではない。言ってみれば、新たな視点や考え方を提供するにあたってのネタである。しかし、それはよく言われる「〇〇で何が分かる」「〇〇に役に立つ」「〇〇に学ぶ」という次元とは距離をもつ。ぼくの狙いは、異文化の人達と一緒に何かをするための文化理解とは何か?を突き詰めることだからだ。そして、まずは、その目標ラインを「ビジネスのため」と限定している。あえて線引きすることで、伝える内容の構造が見えてくるのではないかと考えている。
これをここでもう一度引用したのには、一つのブログと一つのネット記事を読んだからです。まず地政学あるいは戦略論が専門の奥山真司さんのブログです。これから英国に留学する方へのアドバイスとして、日本の研究方法を「八百屋」とし西洋のそれを「料理人」と比喩されたと書かれています。その理由を下記としています。
なぜ八百屋なのかというと、彼らはデータの品揃えが勝負であり、ひとつのテーマについてどこまで詳しいことを知っているかということで勝負しているからです。
なぜ料理人なのかというと、彼らは厳選された材料を選らんで自分のやり方で調理するのが勝負なのであり、ひとつのテーマについてどのような鋭い解釈・分析をできるのかで勝負しているからです。
なるほど、上手いことを言ったなぁと感心したのですが、八百屋は八百屋という線引きがありながら、料理人よりは線引きが緩いからなと思いました。それは職種としてよりも、(比ゆ的にいえば)視覚的に見える目的枠が、後者においてより明確なのではないかとも考えます。加藤周一が指摘した、時間の出発点と終結点が明白なユダヤ的思考が西洋文化の根にあり、その限られた時間枠であるがゆえに建築的構造的世界観を作る傾向にあるとしたことは、研究の方法をも当然変えていくだろうということになります。意図的に線引きし、そのなかで出る例外をどう扱うかのルールを自分で決めていくことが日本の研究者は苦手であるがために、情報量で範囲を確保する方向にいくのではないかともいえます。
もう一つのネット記事とは、日経ビジネスオンラインにあった作曲家の伊東乾氏と湯浅譲ニ氏の対談なのですが、現代音楽やその周辺に対する膨大な情報が交信するなか、これを主要読者であるビジネスマンがどれほどに読み込むかを考えるとき、奥山真司さんが比喩する「料理人」的な訓練が問われているだろうと思います。以下は伊東乾氏の対談冒頭部分の発言ですが、この部分の意図と背景を知ったうえで、この対談を読み込むと色々なことが見えてきます。
この対談のテーマは、ぼくが問題にしている「ユニバーサルとローカルあるいはローカリゼーションの必要性」と直結しています。電子デバイスのインターフェースに地域差を尊重することと、バッハやベートーヴェンにあるフォークロア的な要素に関する感じ方の違いと共通部分をどうみるか。こういう視線でみれば日本的インターフェースをヨーロッパで平気な顔をして売れなくなるはずなのですが、どうも面の皮が厚いのではなく、単に自慢の感性にも磁場があるようだとしか言いようがないと結論づけざるをえない状況を「半ば意図的」に作っています。垂直構造でもやれる、水平展開には耐えられない・・・という次元の前に、こういう問題が横たわっているので、そのためにヨーロッパ文化を理解する意味をまず把握してもらわないと困る、ということになっています。―― ところが、メディアの前面で、そういう声を出せる場がなくなっているわけです。僕の作品を聴いてくださる方があるのは、とてもありがたいことです。 でも、もしマーケティングで考えられたら、現代音楽の聴衆は本当に数が知れています。これが同じ僕でもベートーベンとかバルトークとか古典を演奏すれば、 クラシックファンというのはもう1ケタくらい増えるでしょう。でもそれだって、クラシックは徹底してマイナーで、ポップスの比ではありません。
それらと比べて、40歳を過ぎてから、考えがあって書き始めた読み物の方が、はるかに社会的反響は大きいわけですね。この日経ビジネスオンライン も毎日、数百万人のアクセスがあって、毎週僕が書くものも何十万という人が目にして、厳しいコメントを返してもらえることも多くて。もう3年目に入りまし たが、とてもいい経験というか、勉強にもなっているわけです。
今月は、このブログももっと頻繁に書いていこうと思います。
*「安西洋之の36冊の本」は以下から3回連続で書名と200文字コメントをレポートから転載しました。
http://milano.metrocs.jp/archives/1942
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