2009年4月14日火曜日

総合的戦略をたたていくに必要なもの

前回のエントリーに対して八幡さんからコメントを頂き、最終部分をきちんと引用しておくべきだったと反省しました。ぼくが引用したのは、ダイヤモンドオンラインでの野口悠紀雄氏の以下の記事です。「水平展開」ではなく「水平分業」という言葉をそのまま使うべきでした。

http://diamond.jp/series/noguchi_economy/10017/?page=3

(トヨタやソニーなど)これらの企業はいずれも製造業なのだが、アップルは日本の企業とは非常に違う企業であることが、以上の指標だけからもわかる。ビジネスモデルにおける最大の違いは、アップルは水平分業に移行していることだ。

「水平分業」とは、ある製品を1つの企業だけで作るのではなく、さまざまな企業が分業して各部分を作り、それをマーケットを通じてまとめ上げるよ うな生産方式である。iPodという製品に関して、アップルの役割は、コンセプトの開発と基本的な設計だ。実際の生産は、世界中のさまざまな企業によって 行なわれている。これは、日本企業(とくに自動車)の生産方式である「垂直統合」(1つの企業、および固定的な関係で結ばれた系列企業によって製品が作ら れる方式)と、大きく違う。

自動車産業が生き残る道も、水平分業に展開し、技術的に高度な部分を担当することだろう。たとえば、新興国向けの低価格車も、すべてを生産するのではなく、エンジンだけを担当するというような方式だ。それをしなければ、コモディティ化に巻き込まれるおそれがある。

この部分に対して、こんな高度な展開をする力が日本の製造業にはあるだろうか?というのが、ぼくの危惧でした。八幡さんは、次のように的確にその危惧を具体的な指摘してくれました。

アップルの例を引いて、日本もモノづくりに集中すべきだという人がいるそうですが、「モノづくり」については、造るモノのコンセプトをどう創りだすかという問題と、其のコンセプト+品物の、個性とquality をどのよう仕方で普遍化するかと言う、並々ならぬ知的・美的・技術的に最高度の総合戦略がなければなりませんが、こちらの方は、これまで日本が得意としなかった分野です。

アップルの場合、ジョナサン・アイヴの造形的なデザインにはめ込めるように、モノづくりの技術を適合させると言う、逆転の発想で成功してますが、一連のアップル製品と同分野で、同等の機能と製品の質を備えたモノも、アップルの「イメージ」には、対抗できない、アップルのパソコン市場シェアは小さくとも、高価格で売れ続けると言う独特の地歩を築きました。パソコン界のマセラッティだと、ジョブズが言っていたように記憶しています。(iPod は市場を制覇したようですが)。

しかし、それは、日本の製造業全体に向けて推奨できるビジネスモデルでしょうか?生産量の少ない製品を、高価格で売るビジネス?


ニンテンドーやその他のメーカーで実現できている例はあっても、そうは多くなく、米国について言っても、アップルのような成功例は稀であると見るのが妥当かもしれないとよく考えています。コンセプトメーカーで中心の柱を作り、生産を人件費の安いところに任せ、最終製品とマーケティングとブランドつくりにエネルギーを注ぐことで成功している業界は、ファッションかもしれません。これは生産量は少なくありませんが、高価格で売る戦略です。もちろんGAPやZARAあるいはH&Mのような普及価格帯の業態はあり、家具でいえばIKEAが相当します。

一方、分業体制が非常に進んでいる業界に、航空機産業のあり方があるかもしれません。しかし、航空機はほぼ一品ものの特殊生産に近く、やはり一般消費者市場の製品について言及していかないと実態が見えてきません。因みに、マセラッティはフェラーリと並んでフィアットグループの一員ですから、その特殊性は否定しがたいといえます。

其れよりもまず、日本製のカメラなど、一般ユーザー向け工業製品のマニュアル、ユーザーガイドを、使用者側の視点から考え直し、書き直す努力をしてほしいところです。自分では、花や、風景や、子供の運動会の写真など、絶対に撮らない(そんな時間もない)開発エンジニアが書いたとしか思えないマニュアルは困ります。マーケティングの障害物です。

アップル製品の使用者に共通なのは、マニュアルを読まない事です。其の必要がないほど,ユーザーが直感的に理解し使えるような、ユーザーインターフェースの創り込みがあるからです。

日本の製造業の開発エンジニアと、ユーザーの心理の間には、コンセプトづくりの段階で、すでに大きな溝があるようです。其れをエレガントに超えていく包括的な視野が欠けているらしい事例が多すぎると思うのです。


おっしゃるとおり、残念ながらマニュアルの成功例というのは、実際のところ、あまりないのではないかと思います。バラエティに富むユーザーの要望に応えるためにCD版やオンライン版があっても、PCのソフト以外では利用されないことが多く、ハード製品に対しては紙のマニュアルに圧倒的に期待値が高いのです。その場合、ユーザーと利用コンテクストを一般化しますから、どうしても「適切感」に不満が残ります。しかし、そういった実情を超えて、使い方を含めた製品コンセプトの上手く伝えるには、最低限、ユーザーが日本人といえども、西洋文脈における分析的なコンセプトのあり方が必要とされると思います。そして、開発においては、「一人で製品像をつくる」という試みがもっとあってもいいかもしれません。その先の実践「水平分業」は日本が得意とするチームワークのなかで、新たな形を獲得するのが進むべき道でしょう。



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