2009年2月26日木曜日

スイスの平和は目的ではなくて結果




少し前に毎日新聞記者の福原直樹氏が書いた『黒いスイス』(新潮新書)を読み、どうも居心地の悪い思いをしました。この人はジュネーブ特派員だったときの経験をベースにスイスの暗部を書いたのですが、「それで何なの?」という気がしてしかたがなかったのです。社会部出身らしく「現実」を直視しようという意欲は分かるのですが、その暗部を描くことでどういうスイスの全体像を見せたいのかが分からなかったのです。

ジプシー誘拐、ナチスへの協力、冷戦時の核計画・・・・。それぞれの話題はそれで読み物として面白くても、この手の本は「あとの判断は読者がしてください」というものでもないだろうと思うのです。要するに日本人がイメージするスイスを強調したうえで、それを覆しているだけの出来レースの印象が強かったのです。それぞれの暗部を摘出するなら、それらをリンクさせて自分なりの地図を描くべきでしょう。

スイスの大学で教鞭をとっていたこともある八幡さんから、以下のメールを受け取り、もっともだと思いました。

この「黒いスイス」は、毎日新聞のスイス特派員であった人が書いたものだと思います。何年か前の8月6日の新聞第一面に、「あのスイスが、原爆製造を計画」といういうような大見出しで、冷戦時代のスイスは、何百発もの原子爆弾を生産する計画を立てていたということを、スイス国防軍の退役軍人とのインタビューとして報じていた人の筈です。

ソ連邦崩壊以前のヨーロッパの雰囲気を知らない人でしょうね。あの頃では、スイスが自前の原発を開発して、東側に対する抑止力にしようとしても全くフシギではないのですが、日本のメディアの平和絶対主義からすれば、平和主義的であるはずのスイスが原子爆弾なんて、と言う素朴なおどろきなのでしょうね。スイスに言わせれば、「スイスは平和主義ではなくて、中立主義であり、この中立は、必要であれば原爆を以てしても守る。スイスの平和は、目的ではなくて結果だ」ということなのですが。

なにか、自分のスイスへの思い入れと、あのテンションの高い小国の、ハリネズミみたいな生き方にギャップを感じたのであろうと思います。

メディアの特派員なども、事前に「ヨーロッパ文化部」の門をたたいてもらいたいですね。

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