先月、都内の書店で棚を眺めていて、松岡正剛『17歳のための世界と日本の見方』(春秋社)に目が留まりました。どうしてかというと、拙著のアマゾンにある「この商品を買った人は、こんな商品も買っている」という項目に、この松岡氏の本が掲載されていたので、気になっていました。それで本を手にとってみると、先日「フランスでセカイカメラがどう評価されるか」で紹介した井口尊仁さんが、2002年にブックレットにまとめてくれたとあります。2年間で21刷という数字にも驚き、これは買ってみるかと決意した次第です。
これは大学で講義した内容を本にまとめたものですが、文化の関係性を如何に把握するか、その重要性を説いています。そして関係性の一つの例として、たらこスパゲッティをあげています。最後にこういう文章があります。
これを読んで、これなら、ぼくの関わっている七味オイルプロジェクトは実践的文化論としてよりトレンディじゃないかと我田引水的に思いました。これはトスカーナのエキストラヴァージンオイルと、日本の老舗の七味を混合させた商品です。そこで、この七味オイルの開発ストーリーをぼくが書いたことがあるので、ここにペーストします。
何度かたらこスパゲティの話をしましたが、朝食で食べるたらこと海苔が、スパゲッティというイタリアのパスタ文化と微妙に組み合わさったメニューが、とても好きなんです(笑)。ま、おいしいから好きなのですが、文明論や文化論としても、たいへん有効なメニューだと思うのです。
この続きは、明日、掲載します。冒頭の写真はアレキサンダーのご先祖です。
2008年7月下旬、私たちは長野の善光寺を散歩しました。既に日は落ちかかり、人も少ない、門前の商店も閉まっている。そんな時刻です。八幡屋礒五郎社長の室賀さんが、歩きながら39ある宿坊とその仕組みを説明してくれます。デル・ポンテ社長のアレキサンダーは20年もの昔、一人で半年ほど日本の各地を旅して回った自分の若き姿を遠くに見つめ、卍が寺を意味することを13歳の娘に教えます。都内の昔ながらの家に下宿し、日本人以外の付き合いを遮断しながら、冷える畳に正座してひたすら日本の哲学の本を読んだ日々を思い出します。
善光寺を散歩した後、参勤交代時に大名が宿泊したという元旅館の数寄屋造りの和室に入りました。道に面したファサードは大正時代のアール・デコ様式です。ここでイタリア・フランス・日本の各料理がミックスした懐石料理を頂きました。西洋と日本の美味が実に自然に表現されています。異文化交流が料理の世界ではスタンダードであることを今更ながらに再認識しました。マネージャーは、フランスのリヨンでコックとして働き、東京のヌーヴェル・キュイジーヌのレストランに長くいた方です。「フランス料理では20年も前から日本の蕎麦を試してきた」「私自身もオリーブオイルには七味唐辛子が合うと思い、2-3年前、自分で調合して試したことがある」というマネージャーの話しを聞きながら、今回の七味オイルのプロジェクトが料理の世界の文脈にしっかりと嵌っていることを私は確信しました。
私がアレキサンダー・ヴォン・エルポンスと出会ったのは、1993年冬です。彼はミュンヘン大学で哲学と日本学を勉強していたのですが母親が逝去。トスカーナの丘にある大きな邸宅と広い農園を遺産として継ぎました。 ある日、彼と私の共通の友人から、その頃住んでいたトリノの自宅で一本の電話を受け取りました。 「学究肌のドイツ人がオリーブ農園を持っているんだけど、日本文化に関心が強く、オリーブオイルを使ったビジネスで日本と関係を築いていきたいと言うんだ。一度、会って話を聞いてくれないか?」 これが全てのはじまりでした。
彼はお洒落なギフトボックスのデザイン作業を開始していました。ベルギーの大学でも法学部の学生だった彼に、グラフィックデザインの才能がこれほどにあるとは想像していなかった私は、驚きました。そして、香はまろやかで味は柔らかくなめらかです。「この味とセンスなら日本にも紹介できる」と考え、日本のインポーターを開拓していきました。
時をさらに遡りましょう。幼少の頃よりネクタイにジャケットで自宅の夕食の席につく環境で育ち、イエズス会の厳しい教育の高校生活を終えたアレキサンダーは外交官の道を望み、ルーヴァンカトリック大学は法学部へ進みます。しかしながら、教養課程で哲学に触れた彼は、法律に魅力を感じなくなっていきます。母親に「法学部を卒業すればあとは何を勉強しても良い」と言われた彼は、法学部に在籍しながらハイデッガーとニーチェの勉強を進めます。そこでハイデッガーと交流のあった九鬼周造に興味を抱き、『「いき」の構造』に出会います。禅の思想にも関心を持ち、ルーヴァンカトリック大学の教授に、ミュンヘン大学の日本学の教授を紹介されました。ドイツ人の父親とベルギー人の母親の間に生まれた彼は、スイスで生まれベルギーで育ったのですが、ここでまったく新しい文化と遭遇したわけです。
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